年間94億ペソが動くメキシコシティの映像産業を見て考える

メキシコは、工場を作る場所、商品を売る市場として日本で語られることが多い。でも、「映像を作る場所」として見たことはあるだろうか?僕自身、メキシコシティで撮影や制作に関わっている。それでも2025年の数字を見たとき、「これ、思っていたよりずっと大きい産業なのでは?」と少し驚いた。
2025年、メキシコシティの映像産業では約94億ペソの投資が動いたと市政府系メディアが報じている。2026年9月10日時点の1ペソ≒9.06円で単純換算すると、約850億円になる。さらに1,302件の映像プロジェクト、6,192件の撮影許可、11万人を超える一時雇用が記録された。
もちろん、この数字だけで「日本企業は今すぐメキシコで撮るべきだ」と言いたいわけではない。むしろ気になったのは、メキシコシティが映画や映像を文化だけではなく、投資・雇用・国際制作を呼び込む“産業”として明確に扱い始めていることだった。
メキシコシティは“産業”として育てている

2026年4月、メキシコシティ政府は「NAHUI:メキシコシティ国際映画市場」を発表した。狙いは、制作会社、クリエイター、配給、上映、プラットフォームなどをつなぎ、共同制作や海外投資を呼び込むこと。市政府は年間の経済波及を240億ペソ、雇用を24万人規模へ伸ばす目標も掲げている。
9月10日には「Economía en Pantalla」というフォーラムも開かれ、映像産業をメキシコの経済エンジンとして捉える議論が行われた。そこで示された2025年の数字も、1,302プロジェクト、6,192件超の撮影許可など、同じ方向を示している。
ここで思い出したのが、以前Satelite Film Festという新しい映画祭構想の関係者と話したときのことだ。その人からは、以前のメキシコ映画界では「芸術としての映画」という意識がかなり強かった一方、最近は映画をどう産業として成立させ、どう収益につなげるかという視点も強くなっている、という話を聞いた。これはあくまで僕が関係者から聞いた一つの見方で、メキシコ映画界全体を代表する統計ではない。ただ、今回政府の動きを調べると、その話と妙につながって見えた。
海外からメキシコへ撮りに来る流れは既にあった
僕がメキシコでモデル・俳優としての活動を始めた3〜4年ほど前から、「海外からメキシコへ撮影に来る」という話自体は耳にしていた。
メキシコにいる僕は、アジア系なので、出演者としてその波を強く感じる機会はそこまで多くなかった。ただ最近は、ロサンゼルスやハリウッドなど米国側からメキシコへ来た制作関係者や人材に会うことが増え、「今メキシコにはチャンスがある」と話す場面も実際にあった。
僕自身も以前、別のチームを通じてThe Liftが関係する仕事に参加したことがある。
The Liftは2005年からメキシコで広告・映画などの制作を行い、海外ブランドやスタジオ向けのプロダクションサービスも提供している。公式サイトを見ると、広告、映画・テレビ、スチール、ロジスティクス、タレント管理までを一つの制作エコシステムとして展開している。
広告分野でも、同社はコマーシャル、ミュージックビデオ、ブランドコンテンツをメキシコでフルサービス制作すると明記している。つまり海外の企画をメキシコ側で成立させる仕事は、すでに一つのビジネスとして存在している。
日本企業にとっても、メキシコは“売る場所”だけではない
実は、日本の企画をメキシコで撮ること自体は新しい話でもない。
僕の知っている作品に、松田聖子・神田正輝出演の1985年の映画『カリブ・愛のシンフォニー』がある。松田聖子公式サイトのサウンドトラックには、ガリバルディ広場、カンクン、トゥルム遺跡、メキシコ国際空港といった場面名が並び、作品情報でもカンクンでの撮影が確認できる。つまり40年以上前から、日本の映像企画がメキシコの風景を使う例はあった。
今違うのは、メキシコ側の制作インフラや国際制作を受け入れる産業そのものが、より大きくなっていることだと思う。
日本企業なら、広告だけではない。メキシコの工場や店舗、現地社員、顧客へのインタビュー、観光地、ファッション、食品、音楽、イベント、IP関連企画。日本で作ったものをメキシコへ持ってくるだけでなく、メキシコにあるものを撮り、日本や世界へ届けるという逆向きの制作も考えられる。
メキシコでの撮影は撮影以外の仕事が山盛りだ
ここが、日本側から見ると一番面倒なところでもあり、同時に現地パートナーの価値が生まれるところだ。
ロケーション調査とロケハン
撮影許可と現地交渉
出演者・キャスティング
スタイリング、ヘアメイク、現地スタッフ
車両、移動、日程管理
日本語・スペイン語間の通訳と企画意図の翻訳
現地で起きる変更やトラブルへの対応
日本の制作会社やブランドがこれを一社ずつ探し、毎回メキシコの制作事情をゼロから学び、複数の相手を管理するのはかなり重い。撮影そのものより、撮影が始まるまでの調整の方が増えることもある。
だから現地の制作パートナーに払う価値は、単にカメラを回してもらうことではない。日本側の時間、不確実性、調整コストを減らし、企画の意図を理解した上でメキシコ側の制作環境を組み立ててもらうことにある。
安いからメキシコはもう過去の話
一方で、「メキシコなら安く撮れる」という理由だけで考えるのは危ない。為替環境も変わっている。2026年9月10日時点では1メキシコペソがおよそ9.06円で、メキシコで撮れば自動的に日本より安くなるとは言えない。
それでもメキシコで作る意味があるとすれば、メキシコ特有の街、建築、色、文化、自然、現地キャストが必要なとき。ラテンアメリカ市場へつなげたいとき。メキシコの工場、店舗、顧客、社員を実際に撮る必要があるとき。そして、メキシコで作ること自体が企画の意味になるときだ。価格だけで場所を選ぶのではなく、「なぜここで作るのか」が説明できる企画の方が強い。
TokyoTacos View|メキシコで作り、日本や世界へ出す
今回調べてみて、僕自身の中でもメキシコの見え方が少し変わった。メキシコは、日本企業にとって工場を作る場所でも、商品を売る市場でもある。でも同時に、何かを“作る場所”にもなり得る。
TokyoTacosでは、メキシコでの現地リサーチ、ロケハン、店舗・工場取材、インタビュー、キャスティング、スタイリング、撮影、現地制作、コーディネーションまで、企画に合わせて組み立てている。大規模な撮影から始める必要はなく、「この場所で撮れる?」「この企画はメキシコで成立する?」という段階からでもいい。
日本側がメキシコの業者を一社ずつ探す代わりに、日本語で企画意図を共有し、それをスペイン語と現地の制作環境へ翻訳する。必要なら、まずロケハンや小さなテスト制作だけ行い、その結果を見て本制作へ進む。そういう使い方ができる現地窓口があるだけでも、海外制作のハードルはかなり下がる。メキシコで撮るべきかどうかも含めて、最初の段階から一緒に考えられればと思う。
主な参考資料
CDMX政府系 Canal 21|NAHUI IMPULSARÁ DERRAMA DE 24 MIL MILLONES Y 240 MIL EMPLEOS EN LA CDMX
EL PAÍS Foros|Foro Economía en Pantalla(Anuario CFILMA 2025案内・2025年主要指標)




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