メキシコでSIMの匿名利用が禁止?個人情報の吸い上げ開始か?

先日、僕も自分の携帯番号をCURPに紐付けた。
メキシコに住んでいる人なら、最近、携帯会社から回線の本人確認や登録を促す案内を見た人も多いと思う。僕も手続きをしたのだけれど、最初に思ったのはかなり単純な事だった。
なんで携帯番号までCURPにつなげる必要が?
つい最近、メキシコ政府のAI政策やデジタルインフラについて調べたばかりだったこともあって、余計に気になった。AI、政府クラウド、デジタル行政、本人認証。もしかして、これも全部つながっているんだろうか。
調べてみると、携帯番号とCURPの紐付けはAI政策そのものではなかった。ただ、その背景を追っていくと、2026年のメキシコで『デジタル上で誰が誰なのかを確認する仕組み』がかなり大きく変わりつつあることが見えてきた。
そもそもCURPとは?
CURPは、Clave Única de Registro de Poblaciónの略で、メキシコで個人を識別するための固有番号だ。日本のマイナンバーと完全に同じではないが、行政手続きや雇用など、生活しているとかなり頻繁に登場する。
僕もメキシコで暮らしていると、「またCURPか」と思うことがある。
なぜ携帯番号に本人確認が必要?
今回の制度の目的について、メキシコの通信規制当局Comisión Reguladora de Telecomunicaciones(CRT)は、匿名の携帯回線を減らし、恐喝や詐欺などの犯罪に利用される回線を追跡しやすくすることを理由として説明している。
要するに、これまで匿名でも使えた携帯回線を、「この番号を実際に使っているのは誰なのか」まで確認できる状態にするということだ。
登録しないと、本当に携帯回線が止まる
これは『できれば登録してください』というお願いではない。2026年は電話番号の末尾ごとに期限が設定され、期限を過ぎても本人確認が完了していない回線は停止対象になる。登録を完了すれば、再び利用できる。
2026年6月25日時点でCRTは、すでに6,300万回線が本人情報と紐付けられたと発表していた。生活者からすると『急に携帯会社から登録しろと言われた』という小さな出来事だけれど、制度として見るとかなり大きな変更だ。
政府が全部の携帯番号を一つのデータベースで保持?
ここは気になる人が多いと思う。僕も気になった。
少なくとも現在の制度設計では、回線の本人確認を行い、データを保有する主体は各携帯電話会社とされている。CRTも、政府が全国の携帯番号を一つの巨大なデータベースとして直接保有する仕組みではないと説明している。
一方で、本人確認のためにオンライン上で身分証や顔の確認などが必要になる場合もある。犯罪対策という目的があるからといって、個人情報の扱いを気にしなくていいわけではないし、逆に個人情報を扱う制度だからといって、すぐに『監視社会だ』と結論づけるのも早い。実際の制度設計と運用を分けて見る必要があると思う。
メキシコでは『デジタル上の本人確認』が拡大中
今回さらに調べていて面白かったのはここだった。携帯回線本人確認とは別に、メキシコ政府はLlave MXというデジタル本人認証の仕組みを広げている。
Llave MXは、オンライン上で本人を認証し、さまざまな行政手続きや政府サービスへアクセスするためのアカウントだ。ここでもCURPが本人確認の基礎になる。
ただし、ここは混ぜない方がいい。
携帯回線の本人確認、Llave MX、政府クラウド、AIインフラは、それぞれ別の制度・仕組みだ。今回確認した資料だけから『全部が一つの巨大システムとして統合されている』とは言えない。
それでも、それぞれを並べて見ると、メキシコが『デジタル上で本人を確認できる国』へ進もうとしている方向は見えてくる。

運転免許証までスマホへ
僕自身が分かりやすく実感している例が、メキシコシティの運転免許証だ。CDMXではApp CDMXのCartera Digitalに運転免許証のデジタル版を入れることができ、SEMOVIはデジタル版も物理カードと同様に有効だとしている。Tarjeta de Circulación(車両の登録証)もデジタルで持てる。SEMOVIはSecretaría de Movilidadの略で、CDMXの交通・モビリティ行政を担当する機関だ。
さらにSEMOVIの車両手続きでは、オンライン申請、デジタル expediente、Llave CDMXでのログインなどがすでに使われている。CDMXの政府ポータルを見ても、免許更新、税金・罰金の支払い、各種予約など、スマートフォンやウェブだけで入口まで進められる手続きはかなり増えた。
僕はここ6〜7年、日本に長期滞在することがほとんどなかったので、今の日本の行政デジタル化と厳密に比較することはできない。ただ、メキシコに住んでいる実感としては、少なくとも行政分野では『デジタル化しようとしている』ことがかなり目に見える。

街の小さな店はアナログだが、国はデジタルへ
このギャップも、メキシコに住んでいると面白い。
家電関連で使うパーツを販売しているお店、材木屋、小さなferretería(金物屋)、個人商店などでは、在庫管理や予約、決済、顧客管理がかなりアナログな店もまだ多い。仕事や生活の現場では『IT導入はそんなに進んでいないな』と感じることもある。
一方で、行政側を見ると、デジタル免許証、オンライン手続き、デジタル本人認証などが同時に進んでいる。民間のデジタル化と行政のデジタル化は、同じ速度で進むわけではない。住宅トラブルのような生活上の問題を調べるときも、相談先を探したり、行政・司法関連の窓口や予約へオンラインからアクセスできたりする場面が増えている。全部がオンラインで完結するわけではないけれど、『まずネットで入口を探す』ことは以前より当たり前になってきたように感じる。
国の変化はスマホから見えてくる
僕はこういう変化が結構面白い。海外からメキシコを見ると、GDP、人口、製造業、ニアショアリングのような大きな話が目に入りやすい。もちろん、それも重要だ。
でも実際にここで生活していると、『あれ? 前はこんなの必要なかったよな』という小さな違和感から、大きな制度変化に気づくことがある。
TokyoTacos View|メキシコでビジネスをするなら、『小さな制度変更』も見ておきたい
携帯番号の本人確認は、一見するとメキシコで暮らしている人だけの話に見える。でも企業の立場から見ると少し違う。本人認証や行政手続きの仕組みが変われば、顧客登録、採用、決済、サービス設計などにも影響してくる可能性がある。
だからメキシコ市場を見るときは、大きな経済指標だけでは足りないと思う。現地で人が何を求められるようになったか。どの手続きが変わったか。何がスマートフォンへ移ったか。こういう小さな変化も、市場の一部だ。
TokyoTacosでは、メキシコで実際に生活し、仕事をする中で見つけたこうした変化を、日本側からは見えにくい一次情報や制度資料と組み合わせて調べている。
もし日本企業として『メキシコでこのサービスは成立するのか』『現地では実際どう運用されているのか』『日本から見ている情報と現場にズレはないか』といったことを確認したい場合、Mexico Local Research、現地確認、Market Entryの初期調査、撮影・取材を含む現地プロデュースから相談を受けている。
メキシコで何かを始める前に、まず現地で何が起きているのかを見る。そこから始めるのも、一つの方法だと思う。




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